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認知症について

time 2024/02/13

認知症について

こんにちは!高須店の西川です!

今回は、認知症についての本と映画の紹介をしようと思います。

デイサービス職員なので、毎日認知症の方と関わりあっています。その視点で、認知症というものを考える作品を2つ、紹介できればと思います。

紹介する本は「ボクはやっと認知症のことがわかった 自らも認知症になった専門医が、日本人に伝えたい遺言」です。
映画は「ファーザー」です。
前者はベストセラー、後者はアカデミー賞作品ですから、どちらも知っている方は知っている作品だと思います。

まずは本です。

●長谷川和夫 猪熊律子(2019年)「ボクはやっと認知症のことがわかった 自らも認知症になった専門医が、日本人に伝えたい遺言」KADOKAWA

【Amazon 本の概要より抜粋】
2017年、「長谷川式スケール」開発者である認知症の権威、長谷川和夫さんは自らが認知症であることを公表しました。その選択をされたのはなぜでしょう? 研究者として接してきた「認知症」と、実際にご自身がなってわかった「認知症」とのギャップは、どこにあったのでしょうか?
予防策、歴史的な変遷、超高齢化社会を迎える日本で医療が果たすべき役割までを網羅した、「認知症の生き字引」がどうしても日本人に遺していきたかった書。認知症のすべてが、ここにあります。

まず、この本のタイトルです。「ボクはやっと認知症のことがわかった 自らも認知症になった専門医が、日本人に伝えたい遺言」。
認知症の専門医が認知症になった!
こんなに惹かれるタイトルがあるでしょうか。敏感な方であれば、このタイトルだけで、必読だと感じるのではないでしょうか。

さて、著者の長谷川和夫先生(2021年に亡くなっている)は「業界」では非常に高名な方です。
どの業界かと言えば、医療福祉業界です。医療福祉業界で広く使われている認知症スケールである「改訂長谷川式簡易知能評価(以後HDS-R)」を開発されたのが、著者の長谷川先生です。
どれほど「HDS-R」が広く使われているかと言えば、ある病院では入院する方には全員、認知症の有無に関わらず、年齢に関わらず、この評価をすることになっています。そんな病院は全国に無数にあります。全国では毎日、数え切れないほどの「HDS-R」が使われているということです。医療福祉業界では、それを使う度、名前に入っている「長谷川先生」を無意識に意識します。
もちろん、長谷川先生の業績は他にも沢山あり、この本の中に書かれています。

そんな医療福祉業界では知らない人のいない「HDS-R」を開発された長谷川先生が、認知症になった!
これは言葉を選びますが、非常に趣き深い事柄だと思います。

認知症について、どこまでも深く研究してきた長谷川先生が、その認知症になる。
来る日も来る日も、認知症というものと向き合ってきた長谷川先生が、その対象そのものになる。
何に例えていいのか分からないですが、毎日海に潜り続けた人が、海そのものになるような、毎日山に登り続けた人が、山そのものになるような。長谷川先生はそんな境地に辿り着いたのだと、そのように感じました。
と同時に、認知症は誰もが避けることの出来ないものでもあります。高齢であれば、珍しいものではありません。長谷川先生でも当然のようになります。それは自然なことです。

長谷川先生が認知症になるということは、境地に辿り着いた求道者の晩年であり、同時に人間なら誰もが通る自然な帰結でもあります。
非常に趣き深いことだと思います。

この本は、そんな認知症になった長谷川先生が、どのように認知症と向き合ってきたのか、また、現在(2019年当時)どのように認知症と向き合っているのかが書かれています。
共著の猪熊律子さんは編集者です。長谷川先生の言葉を、専門書ではなく一般書として広く読まれる為に、噛み砕いてくれています。
認知症について知りたい一歩目として、これほど適した本は無いと思います。
一歩目でありながら、どこまでも深い洞察も感じます。

認知症について知るなら、この本は必読です。

話はそれますが、認知症についての本は、大きく分けて2つの視点があります。
介護者など周囲の人間の立場から書かれた本と、当事者の立場から書かれた本です。
周囲の人間の書いた本はたくさんあり、認知症の専門書、家族の経験談、有吉佐和子著「恍惚の人」中島京子著「長いお別れ」岡野雄一著「ペコロスの母に会いに行く」等のフィクションも、多くは周囲の人間の視点です。
対して、認知症当事者が書いている本も、意外にも、いくつもあるのです。私が読んだものとしては丹野智文著「認知症の私から見える世界」があります。アルツハイマー型認知症の診断を受けてから、認知症当事者としての声を届ける講演活動を続けている方の本です。

「ボクはやっと認知症のことがわかった 自らも認知症になった専門医が、日本人に伝えたい遺言」この本は、どちらの視点も入っているという意味で、稀有な本です。
認知症の専門家である長谷川先生と、認知症の当事者である長谷川先生。2つの視点が混在している本は、この本くらいかもしれません。

さて、視点という意味で稀有な作品をもうひとつ。

それが、映画「ファーザー」です。

●映画ファーザー(2021年)
監督フロリアン・ゼレール
主演アンソニー・ホプキンス

【Amazon ストーリーより抜粋】
記憶と幻想の境界が崩れゆく父と、戸惑う娘。 驚きと不安の中たどり着いた答えとは―?
ロンドンで独り暮らしを送る81歳のアンソニーは記憶が薄れ始めていたが、娘のアンが手配する介護人を拒否していた。そんな中、アンから新しい恋人とパリで暮らすと告げられショックを受ける。
だが、それが事実なら、アンソニーの自宅に突然現れ、アンと結婚して10年以上になると語る、この見知らぬ男は誰だ?なぜ彼はここが自分とアンの家だと主張するのか?ひょっとして財産を奪う気か?そして、アンソニーのもう一人の娘、最愛のルーシーはどこに消えたのか?現実と幻想の境界が崩れていく中、最後にアンソニーがたどり着いた<真実>とは――?

この映画は、第93回アカデミー賞で作品賞を含む6部門にノミネートされ、このうち主演男優賞(アンソニー・ホプキンス)と脚色賞を受賞した作品です。

上記のストーリーを読んでもよく分からないと思うので、この先はネタバレします。ネタバレを望まない方は、ここで読むのを止めて、映画を観ていただきたいと思います。

上記のストーリーではよく分からないこと。
この作品の稀有な視点は、認知症の主人公の視点を、追体験するように出来ていることです。
混乱した視点、記憶の曖昧な視点など、認知症の人の視点はミステリーです。記憶にない状況・人などが容赦なく襲いかかるサスペンスでもあります。
認知症の人は、こんな風な世界に生きているのかということを、映画を通して感じることが出来ます。

追体験すること、これは読書では出来ません。読書は能動的な媒体なので、当事者の視点を俯瞰してしまいます。
映画は時間芸術ですから、時間をコントロールしたり、視点をコントロールしたりすることが出来ません。強制的に追体験させられる。そうすることで、映画として認知症を追体験することが出来るのです。
美術・カメラ・脚本・俳優の世界最高峰の技術が、それを後押ししているのは、言うまでもありません。

そんな認知症の追体験映画、興味深い反面、デイサービス職員など、認知症に関わる人たちにとっては、地獄の映画でもあります。

デイサービスで働いていて、
「何回同じこと言うの」
「変なこと言わないで」
「もう、(認知症だから)仕方ないな」
こんなことを思ったこと、言ったこと、数え切れないほどあります。

映画には、日本で言うヘルパーのような職業の方が出てきて、認知症当事者に、そのような発言・行動をするのです。迷惑そうにされたり、子ども扱いされたり、不当に笑われたり、当事者視点で追体験をするのです。
これは地獄です。
鏡です。
反省です。
つまり、最高です。

主人公もなかなか感情の起伏が激しい性格なので(それも認知症の影響が示唆されるものですが)、ヘルパーの言動に繊細に反応してしまっている部分はあります。自分が当事者であれば、そこまで激昂することではないと思います。誇張もされている部分があります。
それでも、反省はします。
認知症当事者には、こういう風に見えているのかと感じることは、それがフィクションであっても、これからの自らの言動を思い返す、良い機会になります。

もちろん、ヘルパーだからという訳でなく、家族としてもそうです。
まして、認知症にも限りません。
他人とコミュニケーションを取るということは、常にそういうことです。
相手が何を感じているかはブラックボックスです。
自分が気付くことが出来るのは、自分が気付くものだけです。それ以外のことは、気付いていないことにも気付けません。

難病モノというジャンルは玉石混淆で、お涙頂戴、ご都合主義が溢れています。
特に医療福祉関係の仕事をしていると、細かい描写に違和感を感じます(具体的な作品名を出したいくらいですが、悪口は止めておきます)。
ノンフィクション・ドキュメンタリーでさえ、少し疑問を感じることがあるくらいです。

愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ、と言います。

認知症というリアルをエンパシーできる作品、他にもないかな、と探す日々です。

同時に、目を閉じて、仕事がんばろ、と思う日々です。

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