2023/07/19

リハライフ高須の西川です。
ルポ 秀和幡ヶ谷レジデンス
著者 栗田 シメイ
【Amazon 概要】
新宿駅からわずか2駅、最寄り駅から徒歩4分。都心の人気のヴィンテージマンションシリーズにもかかわらず、相場に比べて格段に安価なマンションがあった。
その理由は、30年近くにわたる一部の理事たちによる“独裁”管理とそこで強制される大量の謎ルールにあった。
身内や知人を宿泊させると「転入出金」として1万円の支払い、平日17時以降、土日は介護事業者やベビーシッターが出入りできない、ウーバーイーツ禁止、購入の際の管理組合との面接……など。
過去、反対運動が潰された経緯もあり住民たちの間に諦めムードが漂うなか、新たに立ち上がった人たちがいた!! 唯一の闘いのカギは「過半数の委任状集めること」。正攻法で闘うことを決め、少しずつ仲間を増やしていくが、闘いは苦難の連続だった……。
マンションに自治を取り戻すべく立ち上がった住民たちのおよそ4年にわたる闘いをつぶさに描いたルポルタージュ。
本の内容は、上記の概要が全てです。
そんなマンションある? そんなルールひどい! これが実話のもつ破壊力です。
行き過ぎた管理と、自由を求める戦い。
フランス革命も、アメリカ独立戦争も、日本の明治維新も、行き過ぎた管理と、自由を求める戦いと言えます。
そんな大きな話じゃなくても、子どもが親の手を離れて自立していくことも、行き過ぎた管理と、自由を求める戦いと言えます。
映画で言えば「アラビアのロレンス」「卒業」「椿三十郎」「シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ」などなど。
管理か自由か。
管理されることで、安全・安心に暮らすことが出来ます。
しかし、たとえ危険を伴ったとしても、自由が欲しいのも人の性です。
実際に存在するマンション独立革命の物語と、介護の現場。
全然関係ないようで、少し似ています。
介護の現場も、管理か自由か、このせめぎ合いがあります。
上記の本は、自由を求める側の立場ですから、自由=正義、管理=悪という様に見えてしまいますが、管理はそれだけで悪ではありません。
管理って、とても大切なことです。
まだ年端もいかない子どもを、自由の名の下に野に放つ。こんなのダメに決まっています。
管理、必要です。
自由の為に、法律という管理、警察という管理を放棄すれば、それは犯罪の横行する無法地帯です。
管理、大事です。
でも、やっぱり自由も欲しいです。
介護の話です。
例えば、介護の現場で、利用者様の歩行をどうしよう、という話によくなります。その利用者様は、歩行が不安定で、転倒歴があります。
自由=歩行自立
管理=歩行介助
行き過ぎた管理もダメですが、自由ばかりに目を取られると、たちまち転倒です。
介護の現場では、転倒は最悪の結果です。何度、転倒しても怪我しない人もいますが、一度の転倒で骨折や脳出血に至ることがあるからです。
介護の現場での「転倒」の取り扱いはシビアです。
管理か、自由か。
歩行だけでは、もちろんありません。
糖尿病と食事制限。
利用者様同士の物の貸し借り。
テレビのチャンネル権
など。。
些細なことから、管理と自由のせめぎ合いが行われています。どこまで管理しようか。どこまで自由にするべきか。
介護の現場のリアルです。
もう一つ。
管理か、自由か。の問題設定をしたいと思います。
『ルポ 秀和幡ヶ谷レジデンス』の概要のところに、「平日17時以降、土日は介護事業者やベビーシッターが出入りできない」と書いています。
行き過ぎた管理の具体例です。
17時以降や土日に、介護が必要な人も存在するのに、この管理は過剰というものです。
ここで問題にしたいのは、管理が行き過ぎた結果、弱者(介護が必要な人)が切り捨てられていることです。
事態が進行すると、はじめに犠牲になるのは弱者です。
第二次世界大戦におけるドイツの管理体制は、目を塞ぎたくなることばかりです。強制収容にあったのはユダヤ人だけではなく、障害者もです。
対して、管理が過剰にならない様に、自由が行き過ぎれば、どうなるか。法律や警察が無ければ、もちろん、はじめに苦しめられるのは弱者目です。
そうです。
管理にせよ、自由にせよ、行き過ぎた時に犠牲になるのは弱者です。
デイサービスでも、同じなのかもしれません。
忙しくて、どうしようもない時(管理したくてたまらない時)、冷たい態度をとってしまう相手は、助けを必要としている利用者さんです。
1人の利用者さんに、好きなだけ好きなマシンを使わせてあげると(自由にさせ過ぎると)、困るのは、自分も使いたいと言えない利用者さんです。
管理か、自由か。
どちらに傾いてもいけません。
利用者さんの為を思うならば。
裏を返せば、利用者さんの為に働けるデイサービスは、管理と自由のバランスが取れているデイサービスということです。
もちろん、人によって、理想のバランスが違うのは当然です。
ある程度は管理して欲しい人。自由にさせて欲しい人、どちらもいます。
デイサービスは、来歴も職歴も年齢も趣味も違う人たちの集団生活です。
だから、管理と自由のバランスをとることは、とってもとっても難しいことです。
管理と自由。
日々、引き裂かれながら、悩んでいます。
映画「卒業」のラストシーンで、結婚式から駆け落ちした主人公と彼女は、笑顔から一転、不安な表情を浮かべて終幕します。
自由を手に入れても、不安はつきまといます。結末らしきものに辿り着いても、そこで葛藤が終わるわけではありません。
この映画のサウンドトラックであるサイモン&ガーファンクル『サウンド・オブ・サイレンス』。和訳すれば「静寂の音」「沈黙の声」といった所です。
「静寂の音」「沈黙の声」に耳を傾けながら。